がん生物学の研究を通し、新しい予防・治療法の開発を。
生命を救うための私の歩みが、スタンフォード大学から始まっています。

スタンフォード大学医学部 グンサガー・グラティさん
米国カリフォルニア州のスタンフォード大学の広大なキャンパスには、様々な文化的背景を持つ学生が在籍しています。今回は、インド出身のグンサガー・グラティさんにお話を伺いました。

いつ、どのようにアメリカに移住したのですか。

ソフトウエアエンジニアの父が、子どもにより多くの機会を与えられるアメリカへの転勤を決断し、9歳の時に家族で移住しました。インド系移民が多く集まるカリフォルニア州フリーモント市で3年生から9年生までを過ごしました。高校卒業までは父の仕事の関係でコロラドに住み、その後、ボストンのハーバード大学で学士を取りました。現在、スタンフォード大学の医学博士(MD)と学術博士(Ph.D)を両方取得する課程(MSTP MD-Ph.D program[※1])の6年目に在籍し、ローテーションを行っています。

なぜ、医学を志したのですか。

親しかった従兄の妻が多発性硬化症(MS)を患うなど、身近な人が病気で苦しむのを見て、幼心に自分に何かできないだろうか、と考えました。また「人助け」や「人の役に立つ」ことを重視するシク教を信仰する家庭に育ち、素晴らしい両親を持ったことも影響しています。長男なのでリーダーであること、見本を示すことも求められていました。もともと人と話すこと、信頼関係を築くことも好きなのです。とにかく医者以外の道は考えられませんでした。

スタンフォード大学に進学した理由は何ですか。

新しい環境で違ったタイプの人やアイデアに触れたかったこと、幹細胞研究の父で、私の博士論文の指導教官でもあるIrving Weisman博士はじめ、科学の振興に偉大な貢献をされた先生方が多いこと、リスクを恐れない若い起業家精神があり、イノベーションが起こっていること、コラボレーションしやすいこと、ベイエリアで暮らしていたときに一緒に過ごした友人や家族、そしてコロラドの実家の近くにいたかったこと。たくさん理由はありますが、見学に来た時、次のレベルへ行くにはスタンフォードだと確信しました。

現在の研究テーマどのようなものですか。

私の研究テーマはがん生物学です。一つは血液幹細胞がどの細胞になるかを、どのように決定するのかを探っています。もう一つは人の乳がんの研究です。ごく初期の原始的な細胞がどのようにがん細胞に発達していくのか、この仕組みがわかれば予後の予測や治療ができるようになります。ゲノムのテクノロジーをもとに、がんの患者さんのサンプルから膨大な遺伝情報データを解析し、病気の解明や治療法の開発につなげるオンライン・アプリケーションCytoTRACE[※2]を自分の研究に利用しています。このシステムは乳がんだけでなく、いろいろながん細胞に応用することができます。つまり医学とバイオとテクノロジーの3つを駆使しているわけです。

現在の学生生活について教えてください。

パロアルトの退役軍人病院での循環器科の研修を終えて、今はラテン系の患者さんの多いサンノゼのフットヒル・ クリニックで家族医療をテーマに研修を受けています。スペイン語の良い勉強になって、楽しいですよ。聴診器と医学生と書いてある名札は必ず身に着けますが、現在のローテーションでは白衣はあまり着ません。何を着るかどうかは研修内容や受け入れ先によって変わります。例えば、外科のローテーションでしたらスクラブを着ます。

1日のスケジュールを教えてください。

朝5時ごろ起きて、朝食後、朝7時くらいまで少し勉強して、サンノゼのクリニックに車で通っています。8時の診察開始までに来院する患者さんの記録をチェックして、準備をします。プリセプターとよばれるメンター役の医師は1日に20人くらいの患者さんを診ますが、私はそのうちの8〜10人の患者さんを独りで、あるいはプリセプターに助けてもらいながら診ています。
患者さんを診て、プリセプターに報告し、話し合ってプランの合意を得たら、二人で患者さんのところに戻り、診断、治療、そして退出となります。これがだいたい午後5時か5時半くらいまで。その後、スタンフォードのキャンパス内にあるアパートに戻って、大学のジムに行きます。夕飯の後、寝る前に、新しいことを学んだり、ケース研究や興味深い患者さんの症例のレビューをしたりします。教科書やスライドを暗記する勉強だけでは忘れてしまうことでも、実際に患者さんを診ることでしっかり覚えることができます。

将来の夢を教えてください。

大学の医学部で、75%の時間をがんの研究にあて、20%の時間を付属病院でのがんの患者さんの臨床にあて、5%の時間で教鞭をとり、後進の指導を行うのが希望です。患者さんと接する臨床はとても好きなのですが、ルーティン化しがちです。臨床で患者さんを診ながら研究を進めて、新しい予防法や治療法を見つけ、より多くの患者さんを救いたいです。

最後に、日本で医学を志す若者にメッセージをお願いします。

心からやりたいと思えることをするのが成功のカギです。もし収入や社会的地位が高い、起業家などに比べるとリスクが少ない、などで医学を志していたら、いくら優秀でも遅かれ早かれ燃え尽きてしまうでしょう。例えば、老人ホームでボランティアをするなど率先して何かを始め、人を相手にする仕事が好きか、また生命に関しての哲学や医学の背景にある科学に情熱や好奇心を持っているか、を見極めてください。
実際、私はハーバード大学在学中に、英語を話せない移民層をサポートするプログラムに積極的に関わって成功させたことがあり、スタンフォード大学でも同様のプログラムを始めました。燃え尽きないためにはセルフケアも大事です。患者さんに信頼されるには、心身ともに健康であるお手本を見せないといけません。学位取得後も、インターンやレジデンシーがあり、外科医や専門医になるにはさらに時間がかかります。医学は一生学び続けるものです。これを楽しめたら、自然体で、無理せず続けられるはずです。

多忙ながらも快く取材に応じてくださったグンサガーさん。優しい笑顔と、ユーモア、落ち着いた言い回しに、優れたリーダーの品格があふれていました。今後のご活躍をお祈りします。

スタンフォード大学MD-PhDプログラム
課程名 年数 内容
医学博士(MD) 2 講義中心
学術博士(Ph.D) 3 研究中心。学位論文執筆含む。
ローテーション 2 医学博士課程の一部で、クリニカルクラークシップ(clinical clerkship)のこと。4〜6週ごとに異なる必修科や選択科を回り、様々な科での実戦経験を積む。
コア 必修の科。外科、内科、家族医療、小児科、神経科、産婦人科、救急救命医療、精神科
エレクティブ 緩和医療、循環器科、放射線科、睡眠医学、病理学、皮膚科などコアに含まれていない科精神科
セレクティブ コアよりさらに高度な臨床医療。インターンシップに近い研修。
アウェイ 他州でローテーションを行うこと。

学位取得に平均8年。医学と臨床を学ぶだけでなく、基礎医学やビジネスなどと組み合わせて、いろいろな分野に貢献できる人材を育てるのがスタンフォード大学のミッション。MD-PhDのほかに、MBA課程と組み合わせたMD-MBAや疫学や公衆衛生学など修士課程と組み合わせたMD-MAもある。付属病院のある著名大学の医学部も同様[※3]