カナダでの妊婦生活、帝王切開で知った、日本との違い。

カナダでは、カナダ国籍や永住権保持者であれば医療は無料です。どのような高度な心臓手術やがん治療でも専門家が必要であると判断すれば、誰でも無料で受けることができます。ただし、日本と違うのは医療機関のすべてが公的機関のため、サービスを提供するという概念がないことです。そのため、妊娠・出産においても、必要最低限の医療行為しか施されず、日本のような豪華な食事やお祝いの品などもありません。
ここでは、日本とカナダでの妊婦生活と予定帝王切開の経験から、両者の違いやそこから感じたことをレポートします。
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妊娠が分かっても、産婦人科に通い始めるのはしばらく後で。

日本では、妊娠すると産婦人科へ行きますが、カナダでは11〜12週目あたりまで産婦人科医に会うことはありません。それまではファミリードクターのところへ通うことになるわけですが、超音波も内診もなく、毎回あるのは腹囲を測ることのみでした。
お腹が前回よりあまり大きくなっていなかったときは、あまり食事を取れていないのではないかと心配されたこともありましたが、赤ちゃんの成長具合を知ることができない方がよほど不安でした。
産婦人科医のもとに通うようになってからも内診は一回もなく、超音波検査は2回のみでした。妊娠中に最も大変だったのは、意外にも妊婦糖尿検査。検査用のオレンジ色の甘い飲み物を2杯飲んだ後、採血のために待合室で1時間以上も待たなければなりません。この飲み物が今まで飲んだどの飲み物よりも甘く、かなり気分が悪くなったことを覚えています。

日本では厳しく制限される体重管理に関しては基準がゆるやかなのか、カナダでは妊娠中に体重を気にする必要はありませんでした。その意味では、カナダの方が妊娠中はストレスフリーで過ごせたといえるかもしれません。
一方、食べものに関する制限はあり、生魚には寄生虫やその他のバクテリアがいるため、妊娠中はお寿司やお刺身を食べてはいけないことになっていました。私の場合、第一子は日本で妊娠したので、お寿司もお刺身も普通に食べていましたが、国が違うと魚の安全性に関する基準も違うのかもしれないと考え、カナダでの妊娠中は生魚を食べませんでした。

普通分娩は翌日、帝王切開でも3日後には退院。

日本との違いは多くありましたが、最も驚いたのが帝王切開の仕組みでした。日本で第一子を出産した際は手術前日に入院し、出産後もしばらく病院で過ごすことができ、不安が全くなかったとは言えませんが退院まで落ち着いて過ごせました。一方、医療が無料のカナダでは病院のベッド数も限られているため、帝王切開で事前に入院することはありません。
また、出産後も長々と病院にいることはなく、普通分娩の場合は出産翌日に退院することが多く、朝出産したら夕方退院といったこともあります。帝王切開でも3日目には退院でした。

私の場合は午前8時半から手術のため、朝6時過ぎに病院に入りました。自分の病室などはまだなく、手術室横のカーテンで仕切られたスペースに置いてあるベッドで、着替えや点滴などの準備を済ませて待機します。
驚いたのは「じゃ、今から手術室に行くから、この点滴を持ってあの部屋まで行って」と言われて、自分の点滴を持ちながら歩いて手術室に移動しなければならないことでした。そして、手術室に入ると看護師さんから、「手術台に上がって」と一言。そこで手術台にあがろうと試みたのですが、お腹も大きいうえに、カナダ人を想定した手術台なのか、高くて自力であがれず、看護師さんが持ってきてくれた足台を使ってやっと手術台に乗れました。加えて、いろいろな機器のコードがベッドの周りを無造作に囲んでいて、これに引っかかったら大変だなと思ったことも覚えています。

赤ちゃんとの距離が近いのは、カナダならでは。

カナダの出産で良かったことは、帝王切開でも夫がカメラを持って手術室に入れたこと。日本では、帝王切開は手術なので入室できません。出産直後には、手術室にいたスタッフが夫に赤ちゃんを手渡して、親子の写真をとってくれたこともうれしい思い出で、出産直後のお父さんと赤ちゃんのツーショット写真は貴重なものとなりました。また、帝王切開だったために、日本では赤ちゃんと過ごす時間がしばらくなかったのですが、カナダでは「もうそろそろ麻酔が切れてきているようだから、赤ちゃんに母乳をあげましょう」と言われ、母親と赤ちゃんの距離の近さを感じました。

日本では、赤ちゃんのお世話は授乳の時のみでしたが、カナダでは帝王切開であっても術後から自分のベッドの隣に赤ちゃんのベッドが置かれています。赤ちゃんの世話は全て自分でしなければいけないのです。数時間ごとに起き上がり、授乳したり、おむつを替えたりするのはかなり大変でした。
最後は赤ちゃんを自分のベッドに移して、一緒に寝ていたのですが、気づいたら自分が寝ていたりと記憶もあいまいで、もし赤ちゃんがベッドから落ちたり、自分が赤ちゃんの上に寝返りでもしていたらどうなったのだろうと、いま思い返すと怖くなります。
唯一、看護婦さんから手渡された使い捨ての液体ミルクが私の救いでした。日本でも災害用に普及しはじめているようですが、もっと一般的になれば、出産直後のお母さんの負担も減るかもしれません。

なんとか退院したわけですが、カナダでの妊娠・出産を通して、日本の医療は至れり尽くせりだということを再認識しました。ただ、妊婦としては、無事に出産することが一番の望みです。祝膳やお祝いの品があるよりも、カナダのように無痛分娩、緊急帝王切開、その他赤ちゃんを無事出産するためのすべての医療行為や入院にかかる費用は無料というシステムであると、いざというときも誰もが心配なく出産に臨めるのではないかと感じました。

執筆 水口朋子
17年間、カナダに在住。2児(8歳と10歳の娘)の母。通訳・翻訳・マーケティングリサーチャーとして活躍中。