UCSFの女性助教授が語る、米国女性医師のキャリアと現実

カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部助教授 マドハヴィ・ダンデュさん
米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(以下UCSF)は、サンフランシスコ市内数箇所にキャンパスと病院を併設する医療系の名門です。今回は、UCSF助教授でグローバルヘルス修士課程(MS、1年のプログラム)のディレクター、病院医学部門のグローバルヘルスコアの共同ディレクター、そしてHEALフェローシップの上級カリキュラムアドバイザーを兼任されているマドハヴィ・ダンデュ先生に女医としてのキャリアやその現状についてお話を伺いました。

自己紹介をお願いします。

私が3歳のとき、父が工学修士を取得するためにアメリカ留学をした際、インドから一緒に移住しました。家族に医療関係者はいませんでしたが、中学・高校までにはすでに医療や医療における公平性に興味を持ち、医学の道に進むことを決めていました。人がそれぞれ持っている人生のストーリーにも興味があったので、大学では比較文学と医学を学びました。
2000年にミシガン大学アナーバー校で医学博士を取得した後、2003年にUCSFでレジデンシーを修了して内科医になりました。さらに、2004年にはカリフォルニア大学バークレー校(以下UCバークレー)で国際医療、健康と人権をテーマに公衆衛生学修士号を取得しました。2017年には、UCSFでダイバーシティ、平等、インクルージョンのトレーニングも受けています。

UCSFでは指導と臨床の両方を担当されているのですか。

以前は臨床が大きな割合を占めていましたが、今は35~40名の院生を指導するのが80%、臨床は20%くらいになっています。大学院では、主にグローバルヘルスの教育、カリキュラム開発、そしてメンターシップを担当し、グローバルヘルス分野でのリーダーシップスキルを身につけたい健康科学や関連分野の学生や専門家を指導しています。
さらに内科レジデンシーでのグローバルヘルスのパスウェイプログラムも指揮し、研修医の国際経験をコーディネートしたり、彼らの学術プロジェクトをサポートしたり、グローバルヘルスでキャリアを目指す人たちのためのカリキュラムを提供しています。
若い学生たちを教えることで、逆にいろいろな刺激を受け、私自身も学んでいます。また、11歳の娘と8歳の息子がいるので、母親としての自分が一番の優先順位になることもあります。その意味でも、医学部で教えることはスケジュールや興味ある分野を調整しやすいというメリットもありますね。私の専門である内科は、そうしたコントロールがしやすい分野と言えます。

女性医師として困難なことはありますか。

そうですね。女性として家庭と医療の仕事のバランスを取るのは難しいです。私の場合は、夫も緊急救命医療(ER)と内科を専門とする医師で、私の仕事に対して理解があることで助けられています。個人的な経験ですが、ミーティングやほかの医師や専門家とコラボレーションする際に女性に対する差別を感じることもあります。アメリカの医学部および医療現場で女性の数は多いのですが、外科部長は男性が多いなど構造的な問題があり、均等な機会が女性に与えられているとは言い難いです。
女性医師をサポートする団体として、「医学に女性の視点と声を」と1915年に設立されたアメリカ女医会(American Medical Women’s Association[※1])がありますし、3連続女性のプレジデントが続いているアメリカ医師会にも女性医師部門(Women Physicians Section あるいはWPS[※2])があります。Women in Medicineというオンラインラミナーも開講され、コーチングだけでなく、女性に対する無意識のバリアが存在するカルチャーそのものを変えていこうとしています。

女性に対してUCSFではどのようなサポート体制がとられていますか。

女性が女性を助けるピアサポートグループ、女性に平等な賃金が支払われているか、有色人種の女性を積極的に採用しているかといった雇用におけるダイバーシティの確保をチェックする委員会、さらにはフォーマルなもの・インフォーマルなものを含めて女性主導のリーダーシップグループ、研究会などもあります。また、女性には限りませんが、学会出席の際にチャイルドケアの費用を負担してもらえますし、危機的状況や自身が燃え尽きる前に教職員をサポートするウェルネスプログラムやジムなどもあります。UCSF付属保育園もあるのですが、こちらは希望者が多いためなかなか入れません。

学生や若い研修医、なかでも女性に対してはどのような支援を行っていますか。

これはアメリカならではの特徴かもしれませんが、UCSFは参加型で自らの意見を積極的に伝える教育を推進しています。アジア系の女性は、批判されたり、Noと言われたりすることを恐れて発言を控える傾向が多くみられます。また、母国において教員から生徒へという一方通行型の指導方法に慣れていて、教員に言葉を返すという発想がない留学生もいます。そのため、「まだ発言していない人の意見を聞いてみましょう」と全ての人を参加させたり、なかなかクローズアップされにくい女性の声を「彼女が○○と発言しましたが、とても良いポイントをついています」と他の人が復唱して2回聞こえるようにしたりしています。学生たちはまだ若いので、間違ったことを言う場合もありますが、それでも参加し、発言しながら学んでいくことが大切ですし、私たち教員もそこから新しい学びを得ることがあります。
医学教育の早期の段階において、「サポートを受けられる」「サポートを求めていい」という体験を持つことが、将来的な「燃え尽き」を防ぐうえでも重要です。教員側も、家族が病気になったらそのことを公にし、休講や代講への理解を求めるなど、仕事と家庭のバランスをとっている見本を示すことが必要です。このようなコミュニケーション方法に慣れていれば、「交渉(ネゴシエーション)」のスキルアップも期待できます。将来の昇進や昇給で女性だからと遠慮せずに承諾したり、条件を話し合ったりすることに役立つでしょう。

先生の次の目標は何ですか?

グローバルヘルスにおける倫理教育、そして健康の構造的決定要因、例えば衛生的な環境、質の良い食物、住居などの影響について考えていくことです。現在、住居費が高騰するサンフランシスコ近郊のコミュニティにも、きちんとした衣食住を確保したり、適切な医療にアクセスしたりできない人々がいることが問題になっていますからね。

最後に、日本で医学を志す女性や女性医師にメッセージをお願いします。

大きく三つあります。一つめはサポートシステムを見つけること。お互いにサポートし合ったり、同じ女医としてロールモデルを見つけたり、時には勇気をもってカルチャーを変えることも大事です。二つめは大きな目標を達成するための、小さな目標を一つか二つ設定し、3~4年ごとに見直し、必要があれば変更すること。三つめは助けが必要なとき、自分だけで解決しようとしないで周りに助けを求めること。燃え尽きを防ぐためにとても重要です。

大学、臨床、ご家庭とバランスを取りながら、多方面で活躍されるマダハヴィ先生。学生やコミュニティに対する温かくポジティブな姿勢とオープンな人柄が特に印象的でした。ご多忙を極めながらも快く取材に応じてくれた先生の今後のご活躍をお祈りします。